岩田健太郎教授が勇気を出して語った「ダイヤモンド・プリンセス」内の現状が、岩田健太郎教授自身の手で削除されました。
一向に進まないCOVID-19問題に一石を投じ、関係ない方向への飛び火回避策でしょうか。
今回は削除された動画の文字を全文書き起こしてみました。
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岩田健太郎教授がYouTube動画(COVID19)を削除!
動画は削除しました。ご迷惑をおかけした方には心よりお詫び申し上げます。
— 岩田健太郎 (@georgebest1969) February 19, 2020
これ以上この議論を続ける理由はなくなったと思います。
— 岩田健太郎 (@georgebest1969) February 19, 2020
2月20日の朝6時頃に、岩田教授が船内の窮状を訴えた動画を2本(英語版、日本語版)とも削除しました。
現在では動画は見られなくなっているため、動画内容を全文書き起こして伝えたいと思います。
岩田健太郎教授のYouTube動画(COVID19)を全文書き起こし
冒頭
岩田健太郎です。
神戸大学病院感染症内科教授をしていますけれども、今からお話しする内容は神戸大学など所属する機関とは一切関係なく私個人の見解です。
予め申し上げておきます。
今日2月18日にダイヤモンド・プリンセスに入ったんですけど、1日で追い出されてしまいました。
何故そういうことが起きたのかについて、簡単にお話ししようと思います。
感染対策がうまくいっていない?拡がりが怖い
もともと、ダイヤモンド・プリンセスはすごくCOVID-19の感染症がどんどん増えていくということで、感染対策はすごくうまくいってないんじゃないかという懸念がありました。
環境感染学会が入り、FETP(Field EpidemiologyTrainingProgram 実地疫学専門家養成コース)が入ったんですけど、あっという間に出て行ってしまって中がどうなっているかよくわからないという状態でした。
中の方からいくつかメッセージをいただいて「怖い」と、「感染が広がっていくんじゃないか」という事で私に助けを求めてきたので、いろんな筋を通じて何とか入れないかという風に打診してたんですね。
そうしたら昨日2月17日に厚労省で働いている某氏から電話がきて「入ってもいいよ」と、「やり方を考えましょう」ということでした。
災害派遣医療チームとして中へ
最初、環境感染学会の人として入るという話だったんですけれども、環境感染学会はもう中に人を入れないという決まりを作ったので、岩田一人を例外にできないということでお断りをされて、結局DMAT(Disaster Medical Assistance Team 災害派遣医療チーム)、災害対策のDMATのメンバーとして入ってはどうかというご提案を厚労省の方からいただいたので、わかりましたということで18日朝に新神戸から新横浜に向かったわけです。
そうしたら途中で電話がかかってきて、誰とは言えないけど非常に反対している人がいると、入ってもらっては困るということでDMATのメンバーで入るという話は立ち消えになりそうなりました。
すごく困ったんですけど、何とか方法を考えるということで、しばらく新横浜で待っていたらもう1回電話がかかってきて、DMATの職員の下で感染対策の専門家ではなく、DMATの一員としてDMATの仕事をただやるだけだったら入れてあげるという非常に奇妙な電話をいただきました。
なぜそういう結論が出たのかわからないですけど、とにかく言うことを聞いてDMATの中で仕事をしてだんだん顔が割れてきたら感染のこともできるかもしれないから、それでやってもらえないかと非常に奇妙な依頼を受けたんですけど、他に入る方法はないものですから「分かりました」と言って現場に行きました。
そしてダイヤモンド・プリンセスに入ったわけです。
入ってご挨拶をして、最初は「この人の下につけ」と言われた方にずっと従っているのかな?と思ったら、DMATのチーフのドクターと話をして、そうすると「お前にDMATの仕事は何も期待していない、どうせ専門じゃないし、お前は感染の仕事だろう、感染の仕事やるべきだ」という風に助言をいただきました。
これDMATのトップの方です、現場のトップの方。
そうなんですかと、私は兎に角言うことを聞くと約束していましたので、感染のことをやれと言われた以上やりましょう、ということで現場の案内をしていただきながら色んな問題点というものを確認していったわけです。
ダイヤモンド・プリンセスの中だけは心底怖いと震えた
それはもうひどいものでした。もうこの仕事20年以上やってですね、アフリカのエボラとか中国のSARSとか色んな感染症と立ち向かってきました。
もちろん身の危険を感じることは多々あったんですけど、自分が感染症にかかる恐怖っていうのはそんなに感じたことはないです。
どうしてかというと、僕はプロなので自分がエボラにかからない、SARSにかからない方法っていうのは知ってるわけです。
あるいは他の人をエボラにしないSARSにしない方法とか、その施設の中でどういうふうにすれば感染がさらに広がらないかという事も熟知しているからです。
それが分かっているから、ど真ん中に居ても怖くない。
アフリカに居ても中国に居ても怖くなかったわけですが、ダイアモンドプリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。
これはもうCOVID-19に感染してもしょうがないんじゃないかと本気で思いました。
レッドゾーンとグリーンゾーンというんですけど、ウイルスが全くない安全なゾーンとウイルスがいるかもしれない危ないゾーンというのをきちっと分けて、
レッドゾーンでは完全にPPE(個人用防護具)という防護服をつけグリーンゾーンでは何もしなくていいと、こういうふうにきちっと区別することによってウィルスから身を守るというのは我々の世界の鉄則なんです。
グリーンゾーンとレッドゾーンが意味をなさない
ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中はグリーンもレッドもグチャグチャになっていて、どこが危なくてどこが危なくないのか全く区別かつかない。
どこにウイルスが…ウイルスって目に見えないですから、完全なそういう「区分け」をすることで初めて自分の身を守るんですけど、もうどこの手すりと、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのかさっぱり分からない状態でいろんな人がアドホックにPPEをつけてみたり手袋をはめてみたり、マスクをつけてみたり、つけなかったりするわけです。
で、クルーの方もN95(医療用マスク)をつけてみたりつけなかったり、あるいは熱のある方がですね、自分の部屋から出て歩いて行って医務室に行ったりするっていうのが通常で行われているということです。
私が聞いた限りではDMATの職員それから厚労省の方、検疫官の方がPCR陽性になったという話は聞いてたんですけどそれはもう「むべなるかな」と思いました。
▼参考記事▼
和歌山、東京などで8人感染、10代は初 クルーズ船活動の看護師も―新型肺炎(時事ドットコム)
中の方に聞いたら「いやー我々もこれ自分たちも感染するなと思ってますよ」という風に言われてびっくりしたわけです。
どうしてかというと我々がこういう感染症のミッションに出る時は必ず自分たち、医療従事者の身を守るっていうのが大前提で、
自分たちの感染のリスクをほったらかしにして患者さんとかですね、一般の方々に立ち向かうってのは御法度、これもうルール違反なわけです。
岩田先生本人も自分自身を隔離
環境感染学会やFETP(国立感染症研究所の実地疫学専門家)が入って数日で出て行ったっていう話を聞いたときにどうしてだろう?
と思ったんですけど、中の方は「自分たちに感染するのが怖かったんじゃない?」という風におっしゃっていた人もいたんですが、それは気持ちはよく分かります。
なぜならば、感染症のプロだったらあんな環境に行ったら、ものすごく怖くてしょうがないからです。
で、僕も怖かったです。
これはもう感染、今これ某ちょっと「言えない部屋」にいますけど、自分自身も隔離して診療も休んで家族とも会わずにいないとヤバいんじゃないかと、個人的にはすごく思っています。
今、私がCOVID-19、ウイルスの感染を起こしても全く不思議ではない。
どんなにPPEとかですね、手袋とかあってもですね、「安全と安全じゃないところ」っていうのをちゃんと区別できてないと、そんなものは何の役に立たないんですね。
レッドゾーンでだけPPをキチッとつけて、安全に脱ぐっていうことを遵守して初めて自らの安全が守れる。
自らの安全が保障できないときに他の方の安全なんか守れない。
官僚は感染に関する知識に聞く耳を持たない
今日は藤田医科大学に人を送ったり搬送したりするってことで皆さんすごく忙しくしてたんですけど、そうすると、検疫所の方と一緒に歩いてて、ヒュッと患者さんとすれ違ったりするわけです。
▼参考記事▼
藤田医科大岡崎医療センター クルーズ船陽性受け入れ 開院前で感染不安なく(毎日新聞)
「あ!今、患者さんとすれ違っちゃう!」と、笑顔で検疫所の職員が言っているわけですよね。
我々的には超非常識なこと平気で皆さんやってて、みんなそれについて何も思っていないと。
聞いたら、そもそも常駐してるプロの感染対策の専門家が一人もいない。
時々いらっしゃる方いるんですけど、彼らも結局ヤバいなと思ってるんだけど何も進言できないし、進言しても聞いてもらえない。
やってるのは厚労省の官僚たちで、私も厚労省のトップの人に相談しました、話しましたけど、ものすごく嫌な顔されて聞く耳持つ気ないと。
で、「なんでお前がこんなとこにいるんだ」「何でお前がそんなこと言うんだ」みたいな感じで知らん顔するということです。非常に冷たい態度を取られました。
DMATの方にもそのようなことで「夕方のカンファレンスで何か提言申し上げてもよろしいですか」と聞いて「まあ、いいですよ」という話をしてたんですけど、突如として夕方5時ぐらいに電話がかかってきて「お前は出ていきなさい」と検疫の許可は与えない。
まあ、臨時の検疫官として入ってたんですけど、その許可を取り消すということで資格を取られて検疫所の方に連れられて、当初電話をくれた厚労省にいる人に会って「なんでDMATの下でDMATの仕事をしなかったの」と、「感染管理の仕事をするなと言ったじゃないか」と言われました。
「DMATの方にそもそも、感染管理してくれって言われたんですよ」って話したんですけど、とにかく岩田に対してすごいムカついた人がいると、誰とは言えないけどムカついたと、だからもうお前はもう出ていくしかないんだ、って話をしました。
でも僕がいなかったら、いなくなったら今度、感染対策するプロが一人もいなくなっちゃいますよって話をしたんですけど、それは構わないんですか?って聞いたんですけど。
それからこのままだと、もっと何百人という感染者が起きてDMATの方も…… DMATの方を責める気はさらさらなくて。
あの方々は全く感染のプロではないですから、どうも環境感染学会の方が入った時にいろいろ言われて、DMATの方は感染のプロ達にすごく嫌な思いをしてたらしいんですね。
それはまあ、申し訳ないなあと思うんですけれども、別に彼らが悪いって全然思わない。専門領域が違いますから。
しかしながら「彼らが実は恐ろしいリスクの状態にいる」わけです。「自分たちが感染する」という。
それを防ぐこともできるわけです、方法ちゃんとありますから。ところがその方法すら知らされずに自分たちをリスク下においていると。
そしてそのチャンスを奪い取ってしまうという状態です。
医療従事者が次の感染者を作る可能性
彼ら医療従事者ですから、帰ると「自分達の病院」で仕事するわけで、今度はそこからまた院内感染が広がってしまいかねない。
もう…これは、あの…大変なことでアフリカや中国なんかに比べても全然ひどい感染対策をしている。
シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした。
日本にCDC(疾病予防管理センター)がないとは言え、まさかここまでひどいとは思ってなくて、もうちょっとちゃんと専門家が入って専門家が責任を取って、リーダーシップを取って、ちゃんと感染対策についてのルールを決めて、やってるんだろうと思ったんですけど、まったくそんなことはないわけです。
もうとんでもないことなわけです。
これ英語でも収録…つたない英語で収録させていただきましたけど、とにかく多くの方にこのダイヤモンド・プリンセスで起きている事っていうのをちゃんと知っていただきたいと思います。
出来るならば学術会とか、あるいは国際的団体に日本に変わるように促していただきたい。
中国から警鐘を鳴らしたドクターの勇気
編集が下手でちょっと変なつながりになったと思いますけれども、考えてみると、03年のSARSの時に僕も北京に居てすごい大変だったんですけど、
特に大変だったのはやっぱり「中国が情報公開を十分してくれなかった」っていうのがすごく辛くて、何が起きてるのかよくわからないと。
北京に居て本当に怖かったです。
でもその時ですら、もうちょっときちっと情報は入ってきたし、少なくとも対策の仕方は明確で、自分自身が感染するリスク、
まあSARS死亡率10%で怖かったですけれども、しかしながら今回のCOVID-19、少なくともダイヤモンド・プリンセスの中のそのカオスの状態よりはるかに楽でした。
で、思い出していただきたいのは、そのCOVID-19、中国で武漢で流行り出した時に、警鐘を鳴らしたドクターがソーシャルネットワークを使って「これはヤバイ」ということを勇気を持って言ったわけです。
▼参考記事▼
新型ウイルス、早期警鐘の中国人医師が死亡 自身も感染(BBC NEWS JAPAN)
昔の中国だったら、ああいうメッセージが外に出るのは絶対許さなかったはずですけど、
中国は今BBCのニュースなんかを聞くとやっぱりオープンネスとTransparency(透明性)を大事にしているという風にアピールしてます。
それがどこまで正しいのかどうか僕は知りませんけど、少なくとも透明性があること、情報公開ちゃんとやることが国際的な信用を勝ち得る上で大事なんだってことは理解しているらしい。
中国は世界の大国になろうとしてますから、そこをしっかりやろうとしている。
ところが日本は、ダイヤモンド・プリンセスの中で起きていることは全然情報を出していない。
データがなければ感染は進むばかり
それから、院内感染が起きているかどうかは発熱のオンセット(発症日時)をちゃんと記録してそれからカーブを作っていくという統計手法「epi-curve(エピカーブ)」ってのがあるんですけど、そのデータは全然取ってないということを今日教えてもらいました。
検査をした、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の検査をした日をカウントしても感染の状態は分からないわけです。
このことも実は厚労省の方にすでに申し上げてたんですけど、何日も前に。
全然されていないと、いうことで、要は院内の感染がどんどん起きててもそれに全く気付かなければ…気付いてもいないわけで、対応すらできない、で専門家もいないと。
グチャグチャな状態になったままでいるわけです。
誰もやらないならやるしかない
このことを日本の皆さん、あるいは世界の皆さんが知らぬままになっていて、特に外国の皆さんなんかはそうやって、かえって悪いマネジメントでずっとクルーズの中で感染のリスクに耐えなきゃいけなかったということですね。
やはりこれ、日本の失敗な訳ですけど、それを隠すともっと失敗なわけです。
確かに「マズイ対応であるということがバレる」っていうのはそれは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。
やはり情報公開は大事なんですね。
誰も情報公開しない以上は、まあここでやるしかないわけです。
ぜひこの悲惨な現実を知っていただきたいということと、ダイヤモンド・プリンセスの中の方々、それからDMATやDPATや厚労省の方々がですね、あるいは検疫所の方がもっとちゃんとプロフェッショナルなプロテクションを受けて、安全に仕事ができるように。
彼ら、本当にお気の毒でした。
ということで、全く役に立てなくて非常に申し訳ないな、という思いと、この大きな問題意識を皆さんと共有したくてこの動画を上げさせていただきました。
岩田健太郎でした。