スポーツ界において、『連覇して本物』『2回勝って実力』という言葉はよく聞くだろう。
つまり1回勝つことは、運や流れ任せの部分も大きいが、2回勝つことは運だけでは達成できない。
2度勝つというのは、紛れもない実力が伴っていると始めて認められるということだ。
男子テニス界において、とてつもない偉業の2度(2周)達成した選手がいる。
それはオープン化以降初の生涯グランドスラム2周(以下、ダブルグランドスラム)のことで、達成したのは、1人はノヴァク・ジョコビッチ、そしてもう1人は、ラファエル・ナダルだ。
そもそもダブルグランドスラムが如何に凄い偉業なのか、解説していこう。
(下に続く)
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ダブルグランドスラムとは
テニス4大大会は、年に4回開催(全豪、全仏、全英、全米)され、それぞれグランドスラムと呼ばれる。
そして、全ての大会に1度でも勝てば、生涯(キャリア)グランドスラム達成となる。
その中には現トップ選手であるフェデラー、ナダル、ジョコビッチが含まれる。
更に2度ずつ達成することになれば、それをダブルグランドスラムと呼ばれることになる。
1968年のオープン化以降、生涯グランドスラムを達成したのは、たったの8人だが、ダブルグランドスラムを成し遂げた選手はジョコビッチとナダルの2人のみ。
つまり、4つ開催されるグランドスラムの中で、全ての大会を2回ずつ優勝することはそれほど難しいことなのだ。
何が言いたいかというと、1回は自分が不得手のグランドスラムで勝てても、2回勝つことは非常に難しいということを物語っている。
【生涯グランドスラム達成者】wikiより
- | 達成者 | 歳 | 達成期間 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | フレッド・ペリー | 26 | 1933年全米→1935年全仏 | |
2 | ドン・バッジ | 23 | 1937年全英→1938年全仏 | 年間グランドスラム達成者 |
3 | ロッド・レーバー | 24 | 1960年全豪→1962年全米 | 年間グランドスラム達成者 |
4 | ロイ・エマーソン | 27 | 1961年全豪→1964年全英 | |
5 | アンドレ・アガシ | 29 | 1992年全英→1999年全仏 | キャリアゴールデンスラム達成者 (1996年アトランタオリンピックにて金メダルを獲得) |
6 | ロジャー・フェデラー | 27 | 2003年全英→2009年全仏 | |
7 | ラファエル・ナダル | 24 | 2005年全仏→2010年全米 | キャリアゴールデンスラム達成者 (2008年の北京オリンピックにて金メダルを獲得) |
8 | ノバク・ジョコビッチ | 29 | 2008年全豪→2016年全仏 | 2015年全英から2016年全仏まで4連勝 |
ダブルグランドスラムが如何に難しいか?
全てのスポーツにおいても2度達成が重要なことは知られている。
例えばサッカー界では、日本はW杯で2度16強入りしたが、始めて16強入りした日韓W杯では、自国開催などの理由もあって、世界からほとんど強さを認められなかった。
しかし、2010年南W杯で2度目の16強入りを果たすと、掌を返すように、賞賛したのである。
プレミアリーグでは、レスターが2015-2016年シーズンに初優勝したが、翌年の2016-2017年は下位に沈んだ。今ではレスターが強豪だなんて誰も言わない。
よって、2回勝つということは、本物の強さの証明代わりであるからこそ、語られているのである。
更にテニス界において、2度グランドスラムを達成することは次元が違うレベルで難しい。その理由を述べる。
大会ごとにサーフェスが異なる
グランドスラムは年に4回実施されるが、大会ごとにコートサーフェスは異なる。
※全豪ではハード、全仏ではクレー、全英では芝、そして全米ではハード
そして、ハード、芝、クレーとそれぞれ特徴があり、選手にも得手不得手が生じる。
例えば、芝ではボールが低く滑る為、ビックサーバーに非常に有利であるし、クレーでは球足が遅くラリーが得意な選手に向いている。
フェデラーなどは芝が得意で、全英で7度優勝を飾っているが、全仏は1度だけだ。
ナダルはクレーが得意で全仏で13度の優勝を飾っているが、全豪では2022年に優勝するまでは、2009年の1度だけ。
実にその間に決勝に4回進出して、全て敗れている。
同じくジョコビッチも得意なハードである全豪で9度優勝を飾っているが、全仏は2021年に優勝するまで1度だけ。
ジョコビッチも、ナダルと同じく全仏決勝や準決勝に何度も駒を進めながら、ほとんどナダル相手に全て阻まれてきた経緯がある。
こうして見ると、どの選手にも得手不得手がはっきりしていることが分かる。
自分の得意なサーフェスで連覇して強さを証明しても、それを別のサーフェスで証明することは、桁違いの難しさなのだ。
常にストレスフルで戦うテニス界
しかもサーフェスだけが難しい要因ではない。
テニス界は、過密日程な上に、世界各地を飛び回りながら試合を重ねなければならない。
しかも大会で上位に食い込まなければ、ポイントが加算されないため、常にフルコンディションで臨む必要がある。
オフも数週間程度しかない為、肉体も精神も十分な休息が取れるとは言い切れず、ストレスフルな状態が続くのだ。
現在のBIG4(フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレー)と呼ばれるトップ選手は、皆30代前後で披露蓄積による故障を経験し、シーズンの長期離脱を余儀なくされた。
多くのトップ選手が日程の改善やオフの長期化を望む理由は、『あまりに過密日程過ぎてフレッシュな状態を保てない』と声を上げているのだ。
ダブルグランドスラムへ挑戦した選手達
【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
しかし、それほどまでに達成が難しいダブルグランドスラムでも、現役選手で王手を掛けた選手がいる。
それはフェデラーとナダル、ジョコビッチの3人だ。
フェデラーは、2011年、苦手の全仏決勝で、ダブルグランドスラムに王手をかけた。
しかし、"赤土の王者"の異名をとるナダルの前に弾き返された。
逆にナダルは、ここ全豪において、4度王手をかけたが、こちらもジョコビッチ、ワウリンカ、フェデラーと阻まれてきた。
特に2013年のワウリンカ戦では、相性が良いため、勝利確実と見られていたが、腰の痛みが突如ナダルを遅い、敗退を余儀なくされた。
何度もNo1を経験した王者ナダルにとって、グランドスラムの大会決勝で4度連続で敗れることは、考えられなかっただろう。
ジョコビッチに関しては、何度も全仏でナダルに敗れてダブルグランドスラムを逃してきた。
壮絶な打ち合いを演じて見せても、いつも一歩も二歩も及ばなかったのだ。
フェデラーと同じく「ナダルさえ居なければ。。。」と本人達が一番思ったに違いない。
しかし、道のりは遠かったが、まだトップの実力を維持しているフェデラーやナダル、ジョコビッチには、達成する可能性があった。
事実、ジョコビッチは2021年に全仏で遂に優勝→ダブルグランドスラム初の達成者となった。
この年は、遂に準決勝で宿敵ナダルを破り、優勝を果たして見せた。本人も感慨深いものがあったに違いない。
それに続き、ナダルも、2022年の全豪で、もはや肉体的に不可能と言われながらも、遂に悲願の優勝を果たした。
2022年の全豪は、圧倒的に強いジョコビッチが不在だった影響もあったかもしれないが、これも何かの運だろう。
その時の決勝メドベージェフ戦は、相手に圧倒されながらも、疲労困憊の中、フルセットで見事に勝ち切って見せた。
決勝のトータルポイントでは、ナダル182ー189メドべと、相手に多くのポイントを許しながらも勝つという、実に珍しく、そして最後まで諦めない不屈の闘志が際立った試合だった。
※テニスの試合では、トータルポイントが多い方がほぼ99%勝利するというデータがある。それだけ相手にポイントを握られながら勝利するというのは、珍しい試合
難しいからこそ、特別な意義がある
達成すれば、今後何十年経っても色褪せることなく語られるだろう。
そして、それは単なるシングルス優勝回数、勝利数、1位記録、引いてはグランドスラム優勝回数などと比べても遜色ない価値がある。
しかも1強が支配する時代ではなく、フェデラー、ナダル、ジョコビッチなど飛び抜けた実力者がいる時代でだ。
ここ10年のうちに生涯グランドスラムを3人も達成していることを考えれば、現代のテニス界はまさにレベルが高いライバル同士で凌ぎを削っていることが分かる。
1990年代や2000年前半は、それぞれサンプラスやアガシの実力が飛び抜けていたが、それでもダブルグランドスラムは達成できなかった。
※サンプラスにいたっては、生涯グランドスラムも達成していない
そんなスぺクタルな時代にダブルグランドスラムを達成した王者2人に称賛を送らずにはいられない。